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伝説の”レインボースーパーざかな”

好きな本や音楽のこと、日々の暮らしを気ままにつづる雑記ブログ。

4回も脱獄した男の人生を辿る『破獄』~囚人と刑務官の心理戦が面白い!

破獄 (新潮文庫)

 昭和の時代に4回も刑務所を脱獄したという驚愕の男の話です。

 

その脱獄の常習犯である佐久間清太郎の手腕と破獄を防ごうとする刑務官たちとの心理戦が非常に面白い。読んでいてドキドキハラハラ、佐久間はどこで仕掛けるのか?刑務官はこれをどうやって防ぐのか?そんなことを感じながら、読み進める読書となりました。

 

吉村昭さんの本は『零式戦闘機』や『戦艦武蔵』など太平洋戦争を題材にしたものが多いですね。ノンフィクションと小説の間のような作品なので、文章は硬くかっちりとした印象です。が、決して読みにくい、ということはありません。

 

 テーマはどれも一点突破もので小さな題材をとことん追求しています。かといってそこだけに留まらず、その時代背景とかバックボーンの部分にも触れてくれるので、その時代を俯瞰した気分にもさせてくれるところがとてもいい。

 

フィクションだけど限りなくノンフィクションっぽい小説。この『破獄』も単に佐久間の脱獄劇だけに留まっていないところが作品の大きな魅力だと思います。

 

ミステリーのような4回の脱獄劇

佐久間は昭和の戦前から戦中、戦後にかけて4回脱獄を繰り返します。まず面白いのは佐久間が類まれなる洞察力や身体能力を駆使して、牢を破るその手腕でしょう。

 

佐久間は明治の終わりの生まれ。20代のころ準強盗致死罪により無期刑の重罪人となります。まず青森刑務所に入るのですが、ここで1回目の脱獄を計ります。そして成功。

 

でもその後再逮捕され秋田刑務所に送還。しかしここもしばらくしてある方法で脱獄します・・・が、またまた囚われ、脱獄囚を出したことがなかったと言われる堅牢の網走刑務所に。佐久間はここも驚きの方法で脱獄します・・・ってどれだけ脱獄して、捕まるんだという感じですが、まとめるとこんな脱獄遍歴です。

 

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 当然1回目より2回目、3回目のほうが脱獄するのが難しくなっていきます。刑務官たちの監視が厳しくなり、独居房に入れられる。さらに絶対はずせないだろ!っていう鉄の手錠、足錠がつけられる。刑務官たちは自分たちの職務の意地と誇りをかけ、佐久間の監視に目を光らせるんですね。

 

でも佐久間はちょっとのスキを見つけ、脱獄してしまう。

 

圧巻なのは当時脱獄囚を出したことがないという網走刑務所の脱獄劇。日本で最も破獄が難しいと言われていた刑務所です。風呂に入るたびに身体検査をさせられ、部屋もくまなく看守たちが点検し針金一本持つことが許されない中で、佐久間は驚愕の方法で脱獄しました。

 

ちなみに佐久間は風呂に入るとき以外は、常に頑丈な鋼鉄の手錠、足錠をつけさせられていました。そんな中で佐久間がとった脱獄の方法は僕らもおなじみのアレを使ったものなんですが・・・。なんでしょうか?びっくりすると思います。これはぜひ読んでいただきたい。

 

そして4回目の脱獄の後、再び警察の御用になり、佐久間は府中刑務所に送られることになります。もうそのころ佐久間といえば、脱獄のエキスパートとして世間に知られているわけです。そんな彼の手にかかれば脱獄できない場所はないという中での府中刑務所への送還。

 

そこで、物語のキーパーソンとなる人物があらわれます。

 

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当時の府中刑務所長の鈴江圭三郎です。今度は鈴江が驚きの方法で佐久間に接します。

 

結局これが功を奏し、佐久間は仮出獄のまでの間、刑務所でおとなしく過ごすことになるのですが・・・。これもまた驚きの方法なのです。

 

こんな風に『破獄』の魅力の一つは、何とか脱獄したいという佐久間とそうはさせまいとする刑務官たちとの真剣勝負のやりとりにあります。

 

佐久間には実在のモデルがいた

吉村さんはこの小説の最後にあとがきの形で、この佐久間という人物には実在のモデルがいることを明らかにしています。

 

それが昭和の脱獄王と呼ばれた白鳥由栄という人物です。

 

白鳥由栄(しらとりよしえ、1907年7月31日ー1979年2月24日)は、元受刑者。今日では収容先の刑務所で次々と脱獄事件を起こし、「昭和の脱獄王」と呼ばれた異名で知られる。脱獄の際に看守に怪我をさせたり、人質を取ったりするような強行突破をしたことは一度もなく、当時の看守の間で「一世を風靡した男」と評された。26年もの服役中に4回の脱獄を決行、累計逃亡年数は3年にも及んだ。

 

出典:「白鳥由栄」wikipediaより

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E9%B3%A5%E7%94%B1%E6%A0%84

 

wikiで白鳥氏のプロフィールを見ると、佐久間清太郎の辿った道とまったく一緒。脱獄の手口なんかもまるっきり一緒です。吉村さんは明らかにこの白鳥をモデルに小説を描いています。ですので『破獄』に興味を持った方はwikiはとりあえず見ないほうがいいです。ネタバレになってしまいますから。

 

それにしても佐久間に実在のモデルがいたとは・・・と僕は驚いた、心底。

 

たぶん読んだ読者はみなびっくりするんじゃないでしょうか。だって本の中では、人間業とも思えないことを佐久間はしますし、脱獄した後の逃亡生活もかなりサバイバルですからね・・・。

 

こういう人間が実在した、というのは本当に驚きです。

 

太平洋戦争に翻弄された昭和の刑務所の歴史もわかる

 この本はあくまで佐久間清太郎の話がその縦軸となっていますが、ちょいちょいはさまれる昭和の刑務所事情というのがこれまた面白い。

 

2・26事件が起きて日本が太平洋戦争へと向かってく戦前から戦中、そして戦後焦土と化した日本・・・その激動の時代の中で刑務所がどう運営されてきたのか。その歴史がまた波乱に満ちたものなのです。

 

太平洋戦争に突入すると日本は戦局の悪化から、食料を配給制に切り替えます。佐久間が3番目に収容されていた網走刑務所は自前で農地を開墾していたので、自給率が高く食糧難から逃れることができましたが、多くの都市部の刑務所では囚人への食糧が滞っていたといいます。

 

実は戦前、囚人の死亡率は国民全体の死亡率よりも低かったそうです。確かに3度のご飯があり極めて規則正しい生活を送っていれば、人間は健康に暮らせます。酒もタバコもないのは囚人にとっては辛いでしょうが、それは健康的にはいい生活だったのです。

 

しかし、日本軍が劣勢に立たされ食料が滞ってくると、その死亡率が逆転します。囚人に配られる食事がだんだん貧しくなってくるため、栄養失調で亡くなる人々が増えていったんだそうです。

 

さらに僕が驚いたのが、戦時中、人手があまりに不足し看守が圧倒的に足りなくなったことから国が「特警体制度」という囚人が囚人を監視する制度を作ったというところです。

 

罪を犯した囚人が、囚人を監視する。これ、かなりムチャクチャな制度だと思いますが、制度が走り出した当初はなかなか成果をあげたそうで、戦後もしばらくこの制度が維持されます。

 

しかし結局、こういう付け焼刃的な制度は破綻をきたすのが世の常です。終戦から2年後、この制度によって大きな権力を持つようになった囚人が暴動をおこしようやくこの制度は廃止となります。

 

敗戦後、日本はアメリカの統治下におかれますが、刑務所はここでも時代の荒波にのまれます。刑務所にアメリカ進駐軍が関与するようになり、佐久間が収容された札幌刑務所には、軍のオックスフォード大尉という人物が関わるようになります。

 

彼もまた極端な人物で・・・刑務所の管理者たちはその対応に右往左往させられる。

 

こんな風に世間と隔絶されたように見える刑務所も、社会と密接に関わっているということがこの本を読むとよくわかります。

 

『破獄』がドラマで放送される!

そしてこれは本当にたまたまなのですが、この『破獄』、近々ドラマになって放送されるらしいです。

www.tv-tokyo.co.jp

 

テレ東の開局記念日のドラマだけあって、かなり力の入った作品のよう(失礼!)

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http://www.tv-tokyo.co.jp/hagoku/

 

主演の看守・浦田進役にビートたけし、そして佐久間清太郎役は山田孝之。ほかにも吉田羊や満島ひかりなどかなり豪華なキャスティング。ただ配役の割り振りやネットの情報などを見ると、小説の世界をいじっているみたいで個人的にはそこが微妙なところですが・・・。

 

本を読むのはちょっとという方もドラマだったらいかがでしょうか?

4月12日夜9時からだそうです。

 

終わりに

吉村昭さんの小説はこれまで4・5冊読んできましたが、この『破獄』は僕の中で『零式戦闘機』と並ぶ彼のベストの作品になりました。それぐらい面白かった!!

 

何よりも脱獄囚の佐久間清太郎に実在のモデルがいること。そしていろいろと調べると、この佐久間は白鳥のほぼ生き写しで描かれていることが、小説のリアリティを高め、読者の興味を引き付けてくれます。

 

まとめますと・・・

  • 主人公の佐久間清太郎は4回もの脱獄を繰り返した破獄のエキスパート
  • 佐久間と刑務官の意地とプライドをかけた心理戦が読みどころ
  • 佐久間には実在のモデルがいた!!
  • 戦前から戦後の刑務所の歴史は、社会と密接なつながりがあった

こんな人間が本当にいたんだーーとうなること請け合いの1冊です。

 

興味を持たれた方は手に取っていただければ嬉しいです。

今日はこのへんでおしまいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)