伝説の”レインボースーパーざかな”

好きな本や音楽のこと、日々の暮らしを気ままにつづる雑記ブログ。

僕がなぜか向田邦子の本が好きな5つの理由

僕はなぜだかはわからないが、女性作家の小説をそれほど読みません。

 

別に毛嫌いしているわけではないんだけど、自然と読んでいるものを振り返ると男性作家のものが多い、そんな感じです。

 

なんでなんだろう?・・・

 

特に理由はないです。たまたまだと思う。

 

女性作家でよく読むのは、桐野夏生さん、宮部みゆきさん・・・それぐらいだろうか?

 

あ、あともう一人大事な人がいました。

 

向田邦子さんです。

 

 

もうだいぶ前に亡くなりましたが、いまだに人気がある女性作家ですよね。

 

昭和の家族、男と女・・・誰にでもある日常生活の人間関係をこれほど鮮やかに切り取った作家を僕は他に知りません。

 

アメリカの短編小説作家、レイモンド・カーヴァーも日常の人の営みを切り取る名人ですが、向田さんはもっと家族やら男女関係やら『人と人のつながり』に目を向けた作家だなーと思っています。

 

エッセイや短編小説、長編などいろいろ読ませてもらいましたが・・・

 

面白いです。文句なく。。何でこういう表現できんだろ?って読むたびに思います。

 

別に難しい表現は一切なく、むしろ短いわかりやすい文章で、物語を進めていく作家さんです。

 

今日は僕がそんな向田邦子さんの本が好きな5つの理由について書いていきます。

 

 

 

 その1:航空機事故で不遇の死を遂げた女性作家

いきなり逆から書いていきますが、向田さんが今も一種伝説的な存在になっているのは、1981年、取材旅行中の台湾で乗った飛行機が墜落し、突然命を落としたってところにあるんじゃないかと思います。

 

乗客100人以上が全員死亡したっていうぐらいの事故ですから。。

助かる見込みがないぐらい激しい事故だったんでしょう。

 

ものすごい才能豊かな作家がこんな風に亡くなってしまう、なんて・・・。

 

人生の悲哀を感じます。

 

で、面白いというと語弊があるけど、向田さんは生前、航空機について書いたエッセイを発表しているんですね。

 

一週間に一度は飛行機のお世話になっていながら、まだ気を許してはいない。散らかった部屋や抽斗のなかを片付けてから乗ろうかと思うのだが、いやいやあまり綺麗にすると、万一のことがあったとき、「やっぱりムシが知らせたんだね」などと言われそうで、縁起を担いで汚いまま旅行にでる」

 

出典:「ヒコーキ~霊長類ヒト科動物図鑑~」向田邦子 

 

このほかにも母が海外旅行に行く時、航空機に乗る母親の身を案じるエッセイがあったり。

 

昭和という飛行機にそれほど馴染みがない時代背景もあってか、こういう飛行機の恐怖について書いた作品を残しています。

 

そして皮肉にもこの「ヒコーキ」を発表したわずか3か月後に、向田さんは、自分が飛行機事故に遭ってしまう・・・

 

ある種の皮肉な結末に僕は彼女の人生のことを感じずにはいられない。。

 

その2:向田邦子は、テレビの人気脚本家だった。

元々向田さんは、戦後、出版社に就職し会社員として働いていました。

 

そこからテレビドラマの脚本家として活躍していくわけですが・・・

 

昭和40年代から50年代にかけて、僕らも名前を聞いたことがあるぐらいの有名ドラマをどんどん生み出していきます。

 

小林亜星さん主演、昭和の頑固なおやじを描いた『寺内貫太郎一家』

寺内貫太郎一家 (新潮文庫)

寺内貫太郎一家 (新潮文庫)

 

 

 4姉妹の一家の愛憎交わる家族模様を描いた『阿修羅のごとく』

阿修羅のごとく (文春文庫)

阿修羅のごとく (文春文庫)

 

 

 男女の友情と愛情が混在した3角関係、『あ・うん』

あ・うん (文春文庫 (277‐2))

あ・うん (文春文庫 (277‐2))

 

 

どれも今は文庫本となっていて、手軽に読むことができます。

 

3つの作品とももちろん抜群に面白いですが、中でも『阿修羅のごとく』が僕はとても好きな作品でした。

 

ちょっと頼りない60代の父が、実は人知れず・・・不倫をしていて・・・

 

というところからストーリーは始まっていくんですが、父の娘・4姉妹がまたドラマを引っかきまわす。4姉妹のキャラクターがとてもたっていて、こちらもまたそれぞれすったもんだの事情を抱えている。

 

この一家がどんな結末を迎えるのか?

 

文春から文庫で出版されていますが、こちらはすべてト書きになっていて、さながらテレビの脚本のような形で読むことができます。

 

興味を持った方はぜひご一読を。

 

その3:日常を独特の観点で切り取る、名エッセイストである。

こうしてテレビドラマの脚本家として脚光を浴びた向田さんですが、その一方で多くのエッセイを発表しています。

 

このエッセイがまた面白い。

 

何気ない日常を切り取るのだけど、そこに変な意味付けをすることもなく、淡々と書き連ねる文章スタイル。

 

意味づけはないと書いたけど、行間を読ませ、そこに読者は様々な意味を読み取ってしまう。

 

端的で短くて清冽な文章で読みやすいのだけど書いてあることはとても深いのです。

 

例えばこちらの『父の詫び状』というエッセイ集。

父の詫び状 <新装版> (文春文庫)

父の詫び状 <新装版> (文春文庫)

 

 

 いろいろな24の話が収録されていて、どれも短い文章で読みやすい。

その中でも家族のこと・父のことについてかかれているものが多いのだが。。

 

これがまた典型的な昭和のお父さん。

 

女は男をたてるもの。今の時代の父親像とは大きく違い「育メン」も「家事をする夫」の姿もそこにはない。あるのは、厳格で厳しい父親なのである。

 

向田邦子のすごいところは、そうした父の姿を愛し、慈しみ、そして哀しむ。時には憎しみの感情さえも感じさせる。それを短い誰にでもわかる文章でさらりと書いてのけるのがすごい。

 

僕の印象に残っている作品に『字のないはがき』というエッセイがある。

 

戦中、田舎に疎開することになった妹に父は自分のところのあて名を書いた手紙を渡す。裏面には何も書いていない。

 

元気だったらその裏面に丸を書いて送りなさい、ということだ。

 

最初は大きな元気いっぱいの丸のハガキが届いたのに、だんだんとその丸が小さくなっていく・・・。

 

その意味するところは・・・というエッセイ。

 

このエッセイでは、あの厳格なお父さんにこんな一面があったんだ、と思わずほろりとしてしまう優しい話になっている。

 

厳しいだけではない、父のやさしさが垣間見える素敵な話だ。と同時に父の気持ちがそれぐらい動くほど、厳しい時代だったのだという戦争の辛さも感じさせる。

 

こんな風に激動の昭和の時代を生き抜いた普通の日本人の家庭の日常が描かれる。特別な波乱万丈のストーリー、では決してないが文章を書くときのその着眼点、美しく切れ味のいい文を書く感性、どれをとっても素晴らしい。

 

ただあえて言うならば、もう少し毒があってもいいか。ともすればあまりにさらっと読めるのがよくもあり、ちょっと物足りなくもあり・・・。

 

もうこの辺は好みだと思うけど。

 

その4:短編小説こそがスゴイ

これはもう間違いない。声を大にして言いたい。

 

この人の作品は短編小説こそ読んでほしい!!

 

長編もエッセイももちろんいい。だけど、僕が向田さんの作品で一番推したいのはこの小説の短編集だ。

 

向田さんは小説を書き始めるようになってから、それほど日がたたないうちに亡くなってしまったので、それほど多くの作品が世に出ているわけではない。

 

僕がこれまで読んだのも・・・

 

新潮文庫で手に入りやすいこちらの「思い出トランプ」。

思い出トランプ (新潮文庫)

思い出トランプ (新潮文庫)

 

 

 

そして「男どき女どき」の二つぐらいである。

男どき女どき (新潮文庫)

男どき女どき (新潮文庫)

 

 

書いてあるテーマは、長編やエッセイとそんなに変わりはない。

 

どこにでもいる市民の、裏の顔、表の顔、弱さ、後ろめたさ・・・ちょっと人にはなかなか見せにくい人間の一面だ。。

 

例えば「思い出トランプ」の新潮社の紹介文はこんな風だ。

 

浮気の相手であった部下の結婚式に、妻と出席する男。おきゃんで、かわうそのような残忍さを持つ人妻。毒牙を心に抱くエリートサラリーマン。やむを得ない事故で、子どもの指を切ってしまった母親などーー日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編。直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録。

出典:「思い出トランプ」 向田邦子

 

僕が向田さんの短編が好きなのは、そうした人間の持つ弱さに光を当てている点、そしてその人の情けないところ、ずるいところも全部ありのままに肯定している気がするから。

 

こういう短編の名手ってこれまでそんなに出会ったことがないので、向田さんのこの二つの短編集、僕はとても大事にしています。

 

ひとつのストーリーのページ数も少ないので、味わいながら読まないともったいない!

 

そんな素敵な読書時間を与えてくれる数少ない作家さんなのです。

 

調べてみたらまだ、いくつか未読の作品もあるようだ。まだ楽しみが残されているのがとてもウレシイ。

 

その5:とても魅力的な女性である。

向田さんと言えば、妹の和子さんの本などからその生前の姿をうかがい知ることができます。

 

たとえば若いときは全身黒色の服ばかり着ていたとか。でも、手芸もものすごい得意で自分で洋服を作れるほどだったとか。

 

ほかにも猫好きとか、料理も好きで妹さんと小料理屋を営んでいたとか、その恋とか。

 

今も多くの人に愛される理由は、そんな彼女自身のライフスタイルにあるのかもしれません。

 

ネットで探すと、今も・・・

 

kinarino.jp

 

こんな風にそのライフスタイルをまとめた記事がすぐに見つかります。

 

 そして・・・

向田邦子の青春―写真とエッセイで綴る姉の素顔 (文春文庫)

向田邦子の青春―写真とエッセイで綴る姉の素顔 (文春文庫)

 

 

とてもきれいな方なんですよね。

 

そんな向田さんは40代の半ばで乳がんになり、その手術をしてからは右腕が動かない中、左腕で執筆していた時期もあったそうです。

 

そのあたりからテレビドラマの脚本だけでなく短編小説を書くようになったと何かの本で読んだ記憶がある。

 

飛行機事故で亡くなったのが1981年、51歳。というから、事故に遭わなければ多数の小説を書いていただろう。

 

残念であると、と同時にこの妙齢で亡くなったことが彼女の記憶を多くの人に留めることにもなっていると僕なんかは思っている。

 

まとめ

実はこのエントリ、先日日本の小説のオススメ10選を作ったときに、彼女の作品のことを挙げたので、改めてその魅力を考えてみようと書いてみました。

 

要点をまとめると・・・

 

  1. 航空機事故で不遇の死を遂げた女性作家
  2. テレビの人気脚本家だった。
  3. 日常を独特の観点で切り取る名エッセイスト
  4. 短編小説こそがスゴイ
  5. とても魅力的な女性である。

 

こんな感じ。

 

僕はこれまで彼女の著作をそれなりに読んではきたつもりですが、まだまだ世にはたくさんの彼女の本が出版されています。

 

彼女の小説もまだいくつか読むものがあります。あとはエッセイや妹の和子さんが書いた他の本が気になるところ。また少しずつ読んでいきたいと思います。

 

今日はこのへんでおしまいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。 

 

 

※この「理由5つシリーズ」、ほかにこんなのも書いています。

 

morinokanata.hatenablog.com

 

 

morinokanata.hatenablog.com