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伝説の”レインボースーパーざかな”

好きな本や音楽のこと、日々の暮らしを気ままにつづる雑記ブログ。

【おススメの本】『自殺』末井昭~切なくも可笑しさ漂う1冊

 

自殺

自殺

 

 

母が隣家の男とダイナマイトで不倫心中した。。。

 

末井昭さんの「自殺」という本は、こんな衝撃的なストーリーから始まります。

これは小説などフィクションではありません。著者自身の実体験だそうです。

 

 

こんにちは、森野です。

 

いやーーー、びっくりしました。この本。

そしてとっても面白かった。

 

ちょっと前に話題になり、表紙も何とも言えないユーモラスさが漂う本。しかしタイトルは「自殺」。一体どんな本かと興味本位で手に取りましたが、予想以上に面白かった。

 

「面白い自殺の本」。

 

本の宣伝文句にあったそうなんですが、まさにこの本をよく表している言葉だなと。

 

確かに本の中に出てくる各ストーリーは「自殺」というテーマにつながってはいるんですが、一方で、くだらなかったり、どうしようもなかったり、身もフタもない話がこれでもか!と赤裸々に語られています。

 

その一見するとアンバランスなところが面白い。

そして読むとなぜかちょっと気持ちが前向きになったり、

「元気」をもらえる、不思議な本でした。

 

ちなみにこの本は「第30回講談社エッセイスト賞」を受賞しています。

 

今日はこの本の魅力を簡単にご紹介していきますよ。

 

「切実」だけどちょっとおかしい話・・・という距離感

 この本は、著者である末井さんの「個人の話」がストーリーの幹としてありながら、「自殺」に関わりのあるさまざまな人のインタビューが織り込まれ、1冊の本となっています。

 

なので一話一話どこから読んでも楽しめる本になっています。

 

たとえば、高校生のころ両親が突然心中してしまった女性、自殺率全国NO1の秋田県で「秋田県の憂鬱」という自殺の統計を研究している大学教授、またアルコール依存症から自殺未遂を繰り返し「ストップ!自殺」という一風変わったイベントを行う月乃光司さん、など多彩な方にインタビューをしていて、これがまず面白い。

 

ただこの本の魅力となっているのは、

やはり昭和の時代を駆け抜けた著者の末井さんの人生模様だろう。

 

子供の時、田舎で暮らしていたら病気だった母親が突然、隣家の若い男と失踪し、その後ダイナマイトで不倫心中してしまった  という話。

 

働いていた会社で不倫関係になってしまった女の子が、だんだん精神の調子を崩していき、その子がついに自殺未遂をしてしまった という話。

 

自身、3億円もの借金があるにもかかわらず競馬にのめり込んでいった   話。

 

どれもムチャクチャ、ハチャメチャな話。

 

よく一人の人生の中でこんなことが次々と起こるよなーと、読みながらなんだか笑ってしまうような話が次々と出てくるんです。

 

特に 僕が気に入ったのは、競馬の話

 

これは、田中さんというホームレスの男性が競馬の名人だという評判を聞いて、末井さんがその田中さんと競馬にのめり込んでいく話だ。このころ、末井さんは数億円もの借金を抱えていて、それをどう返済しようか、四苦八苦していたころの話だそう。

 

僕に三億円の借金があるという話をすると、急に厳しい目つきになり「すぐ競馬で返せます」とキッパリ言います。その言葉で田中さんと競馬をやってみようと思ったのでした。

出典:「自殺」 末井昭

 

競馬が得意なのにホームレスって・・・

 

そもそもおかしいですよね?

 

なのに田中さんのマジ顔を見て、末井さんは3億円もの借金を競馬で返そうと決意してしまう。

 

この本の魅力は、きっとそのちょっとした「おかしさ」にあると思う。

 

書いてある出来事との

距離の取り方が絶妙なのだ。

 

ふつう「自殺」というテーマで書くとどうしても重くなりがちなところを、末井さんはあえて突き放し、ちょっとした可笑しみをこめて書いている。

 

ある種「自殺」というところにまで関わってくる、自分のこれまでの失敗談を咀嚼し距離を置き、読者に楽しんでもらえるよう再構成されている。

 

そうして生まれたある種の「可笑しさ」が随所に見られるのがこの本の最大の魅力だろう。

 

そもそも「末井昭」さんってどんな人?

著者である末井さんは、もともとデザイン会社あがりの名物編集者だったそうです。

 

検索したら読売新聞にこの本のインタビュー記事がありました。

 

yomidr.yomiuri.co.jp

 

そしてこの読売の記事を読むと、末井さんがこの本を書くにあたりやはり「笑い」を意識されていたことがよくわかります。

 

それはご自身が「クマさん」こと芸術家の篠原勝之さんに母親の自殺のことを話したときに「褒められた」という体験が原点になっているそう。

 

「笑う」ことで、気持ちが楽になる。自殺を考えるような人は、末井さん曰く「自殺スパイラル」にはまってしまっているということで、彼はそういう人たちに「クスッと笑ってもらう」ことで彼らの何かを変えることができたら。そんな希望を持ってこの本を書いたそうです。

 

僕はこの本を読んで末井さんのことにとても興味をもったので、ちょっと調べてみたら・・・

 

こういうのもやってらっしゃるんですね。

 

末井昭のダイナマイト人生相談 - 人生相談(その10) | ウェブマガジン「あき地」

 

いくつか読んでみましたが、こちらも”なかなか”の相談が寄せられていました。末井さんが真摯に回答されているのが印象に残ります。

 

”世間サマ”から自由になる!

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末井さんは母親が若い男と不倫心中したことで、村内ではだいぶ長い間”白い目”で見られていたとこの本で語っています。

 

またデザイン会社でエロ看板を書いていたり、パチスロ雑誌の編集者を務めてきたり、先ほど書いたように私生活も結構ブラックだったり・・・どちらかというと世の諸氏とは違う生き方をされてきた方のように感じます。

 

日本は同調圧力が強い社会です。

 

少しずつ崩れてきてはいますが、そうはいっても「いい学校を出ていい会社に入る」という「ザ・昭和の日本」的な考え方は今でも残っていますし、芸能人の不倫スキャンダルがこれだけ取り上げられるのも「出る杭は打て」という日本の風潮を感じずにはいられません。

 

そうした善良な市民であろうとする世の雰囲気、出てくる杭を打とうとする日本の風潮を末井さんは「世間サマ」と表現し、こんなことを本書で書いています。

 

世間サマは、良識のある善良な人を歓迎しますが、真の人間を嫌うのです。真の人間とは、人間らしく生きることを望み、人としてどう生きたらいいのかを問い直し、その答えを求めようとする人です。

では、なぜ世間サマは真の人間を忌み嫌うのか。それは、自分たちが信じているものが、脆くも崩れ去ってしまうからです。~中略~

しかし、世間にどうしても収まることができず、その軋轢で自殺を考えている人は世間に背を向けて生きればいいのではないかと思います。それが自由ということです。自由とは輝かしいものではなく、孤独で厳しいものですが、真の人間として生きる喜びがあるはずです。

出典:「自殺」末井昭 より

 

たぶん末井さんは「世間サマ」の目に見えない圧力を感じながら生きてきたのだと思います。

 

ただそうした生き方が「正しい」かと言えば、そうではない。

 

というかそもそも人の生き方に「正しい」とか「正しくない」とかの尺度もない。

 

あるのは「人としてどのように生きたいのか?」

その個人の意思だけだと思います。

 

そうしたときに、今の日本の中で息苦しさを感じているのであれば、思い切って世の雰囲気を無視して「自由」に生きていけばいいじゃないか、それが末井さんのメッセージです。

 

ただここにもあるように、「自由に生きること」は世の風潮に反してある種自分勝手に生きていくということでもあります。そこで生じる「孤独」やある種の「厳しさ」はありますよ、と。

 

人に対して、人生の苦難を潜り抜けてきたまさに”大人のアドバイス”です。

 

あなたはどのように受け止めましたか?

 

そういえば、僕の親戚にも自殺した人がいたんだった。。。

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この本を読んでいて、そういえば僕も10年以上前に叔父が自殺したことを思い出した。

 

叔父は昔から統合失調症を発症していて、40を過ぎてもなぜか学ランを着て「東大」に行くことを夢みていた人でした。

 

僕はそのころ大学生活、社会人と自分のことで精いっぱいの状況で、そんな叔父のことを全然気にしていなかったんだけど。

 

あるとき、叔父が「飛び降り自殺」をした、と家族から連絡があり、

あわてふためいて葬儀に参列した記憶があります。

 

そのときに久しぶりに対面した叔父の顔は、やはり飛び降り自殺ということもあって、きれいな顔ではなかったんだけど。。。

「大変だったねおじさん、天国では東大も何もないから安心して暮らしてね」とナチュラルな気持ちで叔父を見送った覚えがある。

 

しかし、葬儀のときはよかったんだけど、それ以降、僕は叔父がなぜ自殺をしてしまったのか?時々ふとしたときに思い出し、考えるようになった。

 

また家系に関して「ちょっとうちって大丈夫かな?」と気にするようになったのも事実だ。「遺伝的に精神病を発症しやすい家系なのかな?」とか「また自殺者が出たりしないかな」とか。

 

なんかいろいろ不安になったんですかね。

 

で僕の結論としては、家族・親族に自殺した人が出ると、残された人には何らかの「しこり」が残る。

 

病気や事故で近しい人を亡くすのももちろん辛いことなんだけど、自殺して残された人はそれとはもうちょっと違う「何か」を引きずることになる。

 

そしてそれはうまく言えないが、残された人の人生に何らかしらの影を落とします。

  

まとめ

ちょっと話が脱線しました。

 

この本はこうした「自殺」というテーマを扱っているけど重苦しい雰囲気が驚くほどない。

 

それは先ほど書いたように、末井さんが「可笑しさ」を意識して書かれたその効果が出ていると思う。なので、読み手の僕らも、気負いをせずどんどん読むことができる。

 

死の際まで追い込まれた人たちが、もがき、苦しんでいる、その軌跡を追っているのは間違いないのだが、不謹慎ながらもなぜか笑いながら読んでしまう。

 

そして読み終わった後、なぜか元気になる。

 

こういう人たちがいる日本という国はなかなか悪くないな、と思い、また明日から僕も力を入れたり、抜いたり適当にやりながら生きていこう、と強く励まされる本である。

 

ぜひ興味を持った方がいらっしゃれば、一読をオススメします。

 

今日はこのへんでおしまい!

 

 

自殺

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